華と…
病室の仕切りカーテンの向こうからは、優子お母さんの綺麗な声が漏れていた。
「兄はんは、最後まで操はんの幸せを願っていましたよ。
あたしを嫁に出してくれた後も、自分一人でみなを背負って働き詰めで。
あの事故だって疲れからくる居眠り運転やったって。
そりゃ、遣り切れへん思いで一杯どしたよ。
そやけどね、それもこれも兄の優しさやったんやって考えるようにしていますえ」
「ほんでもあたしは、健一はんと一緒にいたかった。
彼の優しさは、あたしには苦しみしか与えてくれませんどしたけど。
どんなに苦労したかて、愛する人と、愛する人の子と、死が分かつまで共に生きたいと願わんとはいられなかった。
その気持ちが、今、あたしを苦しめていますえ。
捨てられた後も、変わらず彼を想い続けたあたしは、結局誰からもほんまに愛されることは無かったのだと思い知ったのどす。
誰も信じることができなかった。
自業自得どすな……」
京言葉を話す母に驚きつつ、漏れ聞こえる二人の会話に震えながら、わたしの意識は只一点に集中されていた。