華と…
「その女には亭主がいる。
それも年の離れた。
もう長年寝たきりだそうだ。
何でも、彼女の実家が路頭に迷う寸前の時、手厚い援助をして貰った関係で結婚の申し出を断れなかったんだそうだ。
聞けば、哀しい話だよ」
「じゃぁ、坂本さんは……」
「彼女の夫が死んで、彼女が自由になるのを待ってる」
目の前に置かれた紅茶が、冷めて冷たくなっていた。
何にも知らないで、能天気に毎日を過ごしていたのはわたしの方だった。
自分一人が、重い荷を背負ったみたいに悲劇のヒロイン然として、いったい何様だろ。
「みんな、夫々、色々あるのさ。
華が思い悩んでも仕方の無いことだよ」
そう言って重ねられた雄一の手は、温かかった。
「だから、みんな、分かってくれる。
俺はそう思ってる」