華と…



初めて身体を重ねた日、わたしは幸せの絶頂にいた。



跡取り娘という束縛も、人から美人と言われるこの容姿も、全てはこの幸せの為にあるのだと肯定することができたのだ。


今まで殻を被っていた、自分が開放された気がした。



それなのに……

あの一言が、わたしを奈落の底へと突き落とした。



「みゆき……」



眠りについた雄一が、わたしの知らない女の名を呼んだ。

サークル仲間にも、学年の友人の中にも、わたしの知る限り、『みゆき』という名の女は思い当たらなかった。



――寝言で口走るくらいだもの、きっと昔からの馴染みの女に決まってる。

さながら、わたしは、その女の身代わりなのかな……



そう思ってしまったら、ここにいる自分が姿の見えない透明人間のような気がしてきた。


雄一にとって、いてもいなくても、見えても見えなくても、どうでもいい存在。


熱く火照った身体が一気に冷めた。



――あたしは、そんな者になりたかった訳じゃない……



涙より先に、絶望で心に穴が開いた。
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