華と…
「華はん? えらい大きい声が聞こえましたけど……」
騒ぎを聞きつけて、奥から優子お母さんが顔を出した。
「あら、ま、操さん。旦那はんもご一緒で。
ほんにまあ、遠いとこよくおいで下さいました。
こんな店先ではお構いもできまへんよって、どうぞ奥へ上がってくださいまし」
状況を察した優子お母さんが、目にも留まらぬ早業で、さっと父の後ろに回って上着を脱がせた。
いつもはおっとりしたお母さんの、その見事なまでの立ち振る舞いに息を呑んだ。
まるで、あたかも大切な来客をもてなすように、さり気なく、おだやかに。
「ご心配どしたやろ。
うちは華はんがいらしてくれて大歓迎ですけど、聞けば黙って飛び出して来た言いはりますし」