華と…
慌てず騒がず、優子お母さんは全てを見通していたように悠然と振舞った。
もしかしたら、本当に予感していたのかもしれない。
きつねにつままれたような母と、すっかり毒気を抜かれた父と。
二人は彼女に促されるまま、奥座敷へと進んでいった。
「すんまへんなぁ。
生憎と雄一は配達に出ておりますが、じきに主人が戻りますよって。
こちらでお待ちいただけますか?」
そう言って、座敷の前で優子お母さんはわたしに向き直った。
「華はん、すんまへんけどお茶、入れてきておくれやす」
そして小さな声で、水屋にお茶菓子がありますよって……と付け加えた。
目の前でピシャリと襖が閉められて、わたしはなんだかホッとしていた。
父と話せば、堂々巡りの言い争いなることは明白だった。
優子お母さんは、きっとそれをわかって、わたしに少しの猶予を与えてくださったのだ。
わたしは大きく深呼吸を一つすると、台所へ向かった。