華と…



慌てず騒がず、優子お母さんは全てを見通していたように悠然と振舞った。



もしかしたら、本当に予感していたのかもしれない。


きつねにつままれたような母と、すっかり毒気を抜かれた父と。

二人は彼女に促されるまま、奥座敷へと進んでいった。


「すんまへんなぁ。

生憎と雄一は配達に出ておりますが、じきに主人が戻りますよって。

こちらでお待ちいただけますか?」


そう言って、座敷の前で優子お母さんはわたしに向き直った。


「華はん、すんまへんけどお茶、入れてきておくれやす」


そして小さな声で、水屋にお茶菓子がありますよって……と付け加えた。


目の前でピシャリと襖が閉められて、わたしはなんだかホッとしていた。



父と話せば、堂々巡りの言い争いなることは明白だった。

優子お母さんは、きっとそれをわかって、わたしに少しの猶予を与えてくださったのだ。



わたしは大きく深呼吸を一つすると、台所へ向かった。

< 94 / 202 >

この作品をシェア

pagetop