ビターな恋
充分に湯船で温まってから上がり湯を浴びて、風呂を出る。

体を拭いて、用意していた服に着替えてリビングに向かうと、リビングは真っ暗だった。


「…母さん、自分の部屋に行ったのか」

俺は暗闇の中、キッチンに向かい、冷蔵庫を開ける。

冷蔵庫の明かりが室内を明るく照らした。

中からオレンジの炭酸を取り出して、扉を閉めようとした時


「…京平さん?」

つばさの声がした。

振り向くと、俺の後ろにはいつの間にかつばさが立っていた。

「どうした?」

平静を装いながら冷蔵庫の扉を閉める。

リビングは真っ暗になったが、キッチンには小さな小窓からの月明かりが差し込まれていた。


「いや、亜梨紗が寝ちゃって…私が一人で起きてたら物音がしたから…」


「ああ、悪い。うるさかった?」


「ううん」

つばさは即座に首を振る。

俺が炭酸のペットボトルを開栓する、あの小気味良い音だけが部屋中に響いた。

俺が飲んでいる間、つばさはずっと黙っていて、もちろん俺は話せるはずがなくて。


沈黙が続いた。

「…えーっと…」

時計をちらっと見ると、十一時半を指そうとしていた。


「あ、もうこんな時間か。つばさも早く寝ろよ?」


「…うん」

俺はペットボトルのキャップを閉めて、冷蔵庫に戻す。

その間も、つばさは微動だにしない。


「…何かあったのか?」

扉を閉めてからそう尋ねるが、つばさは何の行動も起さなかった。

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