ビターな恋
「つばさ?」
ひょい、と顔をのぞくとつばさは涙目になっていた。
予想もしていなかった事態に体が固まる。
「つ…つばさ?」
「実は…寝てたの、さっきまで。で…怖い夢…見て…
小さいころから見る怖い夢。うっすら内容覚えてるんだけど、なんの変哲もないただの夢。なのにすごく怖くて…
亜梨紗は寝ちゃってて、起こすの悪くて、そしたら京平さんがここにいる音が聞こえて…」
なるほど、それで降りてきたのか。
「ごめんなさい…」
つばさはパジャマの裾で目元をこすった。
俺は小さく笑って
「いいよ、落ち着くまで一緒にいてやる」
つばさの頭をポンポンと叩いた。
つばさは背が高くて、髪が短くて、ボーイッシュなところもあるけど…
ちゃんと女の一面も持ってる。
《何だろうな、これ…ギャップ萌えってやつか?》
なーんてことを考えながら頭を撫でていたら
「京平さん、もう平気…ありがと」
つばさが顔をあげた。
「お、そっか。じゃあ上行くか」
俺がそう言うとつばさはこくりと頷いて、リビングを出る俺の後を追ってきた。
階段を上がり、俺は俺の部屋の前に、つばさは亜梨紗の部屋の前に立ってお互い「おやすみ」と言ってから部屋に入った。
俺はベッドにもぐりこみ、目を閉じる。
俺は、口角が無意識に上がっていることに、気づいていなかった。