ビターな恋
仁美の後ろ姿が見えなくなるまで、窓を見つめていた。
しばらく呆けていた。微動だにしなかった。
「……帰るか」
仁美がカフェを出てから十五分後、ようやく俺は動き出した。
ゆっくりと家に戻って行く。
「ただいまー…」
玄関を開けてすぐに、つばさの靴が無いことに気づいた。
「あれ、お兄ちゃん早いね」
部屋から少し顔を出した亜梨紗が見える。
「ああ…少し話しただけだから。で、つばさは?どっか行ってるのか?」
「つばさは帰っちゃいましたー」
亜梨紗はあっけらかんとそう言い放って、部屋の中に戻る。
「………は?帰っ…た?」
俺の声だけがむなしく響く。
「…そっか、帰ったのか…」
靴を脱いで、自分の部屋への階段を上る。
何で俺は、こんなに落胆しているんだろう。
もっとつばさと話したかったのか?それとも…?
部屋の扉を開けて、カバンを床に下ろす。
「…わっかんねぇ…」