その信頼は「死ね!」という下種の言葉から始まった[エッセイ]
 たとえ言われ慣れても、「死ね」という言葉を誰かに軽々しく投げかけていいなんて思わなかったし、

「死」を軽んじているわけでもなかった。


 そもそもなぜ、その言葉を『軽々しく』言ったと思うのだろう。

 人が傷つく言葉だと知っているから、軽々しくなど絶対使わないものなのに。

 その言葉を言うのに、どれだけの神経を使うだろう、はらうだろう。


 観月ならばできない。

 たとえ通りすがりの他人でも、できれば嫌われたり憎まれたりしたくないもの。


 恩師は当時すでに60歳を過ぎていた。約40年の教師生活を、どんな葛藤の中で過ごしたのか。

 自分が生徒に憎まれることを少しも厭(いと)わずに、悪役を演じていたのだとしたら、

「死ね!」という言葉の裏側に隠された想いは……


──“愛”以外の何がある?
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