Under Tamiflu 灰色の天使
離れてから親指で涙を拭うと
彼女の唇が必死に笑おうとした。

「・・UT・・・アタシのコト・・
忘れんといて・・そやなかったら・・
全部・・残さんと消してしもて・・な・・?」


嗄れて震える声、
そして伸ばした指先が

たどたどしく俺の眉、
頬骨、顎のラインへと
なぞり滑って行く・・

変わらない、切ない癖。


「・・消すかよ・・向こうで
会った時、困るじゃねーか」


熱くなる喉の奥を堪え、
声色をけして変えない様に・・

そう懇願した、いじらしい女を
俺は労わるかに
ずっと頬を撫でてやってる。

やっと一生懸命、生きる気に
なってた女である。

"遅すぎる"と
云われればそれまでだが、
俺の様な立場の者には
やりきれなかったのだ。


「また・・会える・・?」

「ああ」

「また・・歌って・・くれる?」

「ああ・・・・。」

「あり・・が・・・とう・・。」

「・・・・・・・・・おやすみ。またな・・?」


どうしようもない哀しさに
輝いていたその目を‥
手でそっと閉じてやった。

険しかったであろう
彼女の人生の幕を引く様に・・。


途端にモニターがやかましくなる。

振り向くとヤツも勿論もういない。
 
一緒に・・行っちまったんだ。


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