Under Tamiflu 灰色の天使
亡骸に・・
まだ元気だった頃の彼女を
思い出しては切ない溜息を零す。

「何でも歌ってやるよ・・、演歌と
ヒップ・ホップ以外ならな・・?」

手に包み、温かみの残る、
悲しい笑みを浮かべたままの
こけた頬に口付けて。

俺は駆け込んできた忙しない
連中を避ける様に部屋を後にした。


こんな仕事が何になる____

そうも思ったさ。

俺はその足でそのまま
屋上に勝手に上がって煙草を
燻らせている。

ぼんやりと光る星を眺めて
想うのは奈津子の事だ。

アイツとは夏に知り合った。
勿論、このお役目上の事である。

彼女を訪ねた時、マンションの
ベランダで呑んではいけない筈の
酒を飲みながら夜空を眺めてた。

「前に歌ってくれた曲・・あれ、凄くスキ。
星もやけど、犬とかにも"死ぬ"って
概念はないんやて。 何で人間にだけ、
そんなんがあるんやろう・・?」

俺の入って来た気配を察し、
振り向いた彼女があっけらかんと
そう云ったんだ。
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