Under Tamiflu 灰色の天使
狂ったシナリオ
「アハハッ・・!」

「・・・。」

俺は今、病室で屈託なく笑う
ベッドの病人に
時々目をやりながら
一緒に映画を観てる。

入浴が許されたその日の晩、
彼女は風呂から
上がってくるなり
借りたDVDを再生し始めたんだ。

もう、すっかり食いついて
泣いたり笑ったり大忙しだ。


「ああ・・いいなぁ、
ずるいよ・・神はニブツ以上、
この女優さんに与えてない?」

「以上?」

「女の子が欲しいもの
全部持ってそう。」


二枚目の『13番街の住人』を
観終わった後で
首をもたげ、
フウと溜息がちに云うのだ。


「そんな事ねえよ、本人はもっと
身長が欲しいっつってたし・・。」

「えっ?」

「あ・・、前にテレビで云ってた。
・・さ、また明日だ。
そろそろ寝なきゃな。」

「もう、こんな時間? 早~い・・。」


危ねえ・・・
つい口を滑らせちまった。

俺が急かす様に
ポータブルを閉じると
ブウブウ云いながらも
やっと布団に潜り込んだ。

枕元の灯りも薄暗くしてから
おやすみのキスの代わりに
おでこに掛かる髪をクシャ・・と
手でその柔らかさを
確かめてかに撫で上げてやる。


「フフ、明日からは
どんな挨拶をするつもり?」

「さあな・・
考えとくよ。じゃ、オヤスミ」


麻美はあの男から貰った
バンダナ風の帽子を
台の上にもう用意していた。

ひょっとして・・
コレを被りたい為だったりして。

だけど、女ってのは
案外強いもんだ。
イザとなったら
即決しちまうんだもんな。



< 83 / 95 >

この作品をシェア

pagetop