Under Tamiflu 灰色の天使
喫煙所の中で座って
腕を組んだまま眠っていた。

死神も夢を見る。
夕べの事を考えていたせいだ。

ヤバイ 
此処には肺がん予備軍が沢山いる。
早く姿を消さなければ。

慌てて席を立ち一度姿を消すと
麻美の部屋に戻った。

丁度バリカンを持った女が
彼女に確認を取っていた所だ。

「ほんとにいい?」

「ええ、やっちゃって。」

麻美は入口に立つ俺に気付き
ニマっと笑う。

見る見るウチに髪の毛は刈り取られ
ものの見事にツルツル頭となった。

美容師さんは合わせ鏡で彼女に
見せてやるとちゃんとバンダナの
帽子も着けてやってくれていた。

「じゃ、風邪だけひかないでね。」

「有難う。ご苦労様。」

2人きりになった所で、
イスに座ってた彼女の肩を押さえ
真正面から見てやっていた。


「綺麗な頭の形だな、見惚れちまう」

「変な褒め言葉・・! フフ」


俺にクリクリと頭を撫でられて、
照れ臭そうに
その手を払い除けようとする。

抗がん剤の治療が終ればまた
髪は元通り生えてくるんだ。

先に進む為には仕方ないと、
覚悟は決めたものの
弱気な言葉を
俺の前で出せずに明るく振舞ってた。


「安心しろよ。
スケベは髪伸びるの早いらしいぜ?」

「フンだっ・・!」


今日は午後から無菌室での
骨髄検査が待っている。

痛い検査だと本人も解ってて
夕べもなかなか寝付けなかったのだろう。


「今日は頑張んなきゃ・・!」

「当然だ・・!」


そう云って俺に手を上げた。
パシンと、催促に応じてハイタッチだ。

そのまま、
いい意地を見せ続けてくれ。


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