教えて！恋愛の女神様

「そりゃまたヤラせてもらうために言ったんだよ。本心じゃない。まあ、馬でいうところの鼻先に人参みたいなもんかな」
「ひどい……ひどい、ひどい、ひどいっ！」
「だったらカンタンにホテルなんか行かなきゃいいだろ。おまえが『イヤ』って言えば、他のカモを探したんだから」
「よくもそんな事が言えるわね。ゲス、サイテェーッ！」
私は悲しくて悔しくて叫んだ。しかし彼氏……いや、私を性欲のはけ口として扱った男はビビる様子もなく、ゲラゲラ笑った。
「そんなん、痛くもかゆくもねぇよ！ま、と言うワケで、俺達終わりにしようや。バイバイ！」
背を向ければ、余裕で立ち去ろうとした。彼は有名医大に通う一年生。将来このまま付き合っていけば『医者の妻になれる』と浮かれていただけに、怒りを抑えきれない。持っていたバッグを腕から外すと、男の後部をあらん限りの力でたたいた。
「死ね！死ね！死ね！死ね！」
「いてっ！いてっ！いてっ！やめろ、いてぇっ！」
「死ね！死ね！死ね！死ね！」
「いてっ！マジ腹立つ、テメェッ！」
すると突然男はバッグをつかみ、私の顔をグーで殴った。左頬に男の鉄拳がめり込む。
激痛が頬を中心に脳全体を包んだかと思えば、細胞が散り散りになったような気がした。
　私は右横へ吹っ飛び、瞬殺されたボクサーのようにコンクリートの床へ倒れた。
「こんのブスが！」
男は『大丈夫か？』と気遣う様子もなく吐き捨てた。
「お前こそ死んじまえ！」
そして唾をペッと吐きかけると、足早に去って行った。『殴ってゴメン』とか、優しい言葉をかける様子はない。あっという間に、細身の背中は闇に消えた。
-彼は、本気で私を捨てたのだ-
「うっ、ううっ……」
急に涙があふれた。姿が見えている間は少しでもギャフンと言わせたくて強気にふるまっていたが、消えてなくなると押しこめていた怒りや悲しみが、心の底からマグマのように噴出した。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！」
大噴火だ。まるでハワイのキラウェア火山のようだ。目という火口から噴火した涙はマグマのようにドロドロと頬を伝って流れ、アゴから地面にしたたり落ちた。次から次へと流れ落ちた。すると、その重みで殴られた左頬が痛み、もっと悲しくなった。