教えて!恋愛の女神様
そのころ、Tシャツとジーンズに着替えた翔太は、携帯電話と財布を持ち、慌てて二階にある自分の部屋から居間へ降りてきた。居間にはくつろいでいた父と母がいて、テレビで朝の情報番組を見ていた。
「どうした?翔太。血相変えて」
「父さん、車貸してくれる?」
「いいが、何かあったのか?」
「エリカが……エリカが死ぬって言うんだ」
「エリカちゃんが!」
父と母は驚いて顔を見合わせた。
「すぐ行ってあげたらいい。何だったら、俺も一緒に行こうか?今日は非番だから、体は開いているぞ」
「うん、お願いするよ」
「よし、今往診の鞄を取ってくる。翔太は先に車に乗っていてくれ」
「わかった」
翔太はテレビのそばの壁にかけてあった車のキーを持つと、一番に居間を飛び出した。父も続いて出ると書斎へ行き、黒くてマチ幅の広いカバンを持って車庫へ向かった。中には聴診器を始め、ちょっとした医療用具が入っていた。
 車の運転席にはすでに翔太が乗っていて、往診カバンを持った父が助手席に乗ると、すぐ発進した。
 めずらしく翔太は焦り後悔していた。ハンドルを握る手も、アクセルを踏む足もブルブルと震えていた。
(本当にエリカが死んだらどうしよう……俺の責任だ!)
自然とアクセルを踏む足に力が入り、少しでも早くエリカの家に着きたいという思いは父に伝わった。
「翔太、大丈夫だ。冷静になれ。焦ればもっと事態は悪くなる」
「う、うん……」
しかし翔太は冷静になれなかった。最悪の事態が頭の中にこびりつき離れなかった。
 十五分後、エリカの住むマンションに着いた翔太と父は急いで車から降りると、一番近い入り口から建物の中へ入った。マンションはオートロック式だが翔太が合鍵を持っていたので、集合玄関のドアはなんなく開けることができた。
 そのまま中へ入ると、目の前に四人乗りのエレベーターがあった。呼ばずともエレベーターは一階にあり、乗るとエリカの住む部屋がある八階のボタンを押して上がった。






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