教えて!恋愛の女神様
一つ、右手で取った。おにぎりはほどよく暖かかく、頬ばれば米の甘味と適度な塩加減が口の中一杯に広がった。とてもおいしかった。胃の中は空っぽだったので、おいしさが隅々までしみた。胸がジン……とした。
 すると涙が一筋こぼれ落ちた。私は慌てて拭いた。
「うまいだろ?泣けるくらい」
「ふ、ふつうです!」
「腹が減っている時ってのは、心も腹ペコだ。ロクでもない事ばかり考えちまう。こいつを食ったら腹だけじゃなく、心も元気になる。つまり、幸せになるために頑張れるってワケだ。しっかり食えよ」
「そうかなぁ……」
「知佳はいつも不安そうだな」
「えっ、そうですか?」
「アタイが言った事に対して必ず一回は疑問形で返答するぞ」
(言われてみれば、そうかな?)
「いいじゃないか、次の恋愛でまた失敗したって。ダメだったとしても、また立ち上がればいい。そうやってみんな達人になっていくんだ」
「でも、また痛い思いするのはイヤだな」
「おっと、また不安になってるな」
「し、しょうがないじゃないですか。クセなんですから!それに、ロマンスが生きていた時と今は違うんです。ロマンスの時に通じた事が、今は通じないかもしれないんです」
「いや、そうでもないぞ。アタイが人間として最後に死んだのは、つい最近だからな」
「最近?」
「おお、百年前くらいだ」
「百年!めっちゃ昔じゃないですか!」
私は口の中に満杯におにぎりを詰めたまま叫んだ。ロマンスの顔には、私の口の中から飛んだ米粒があちこちについてしまった。ロマンスはそれらをイラついた様子で取った。
「アタイにとっちゃ、百年前なんざつい最近なんだよ。クシャミ一つと一緒だ。現世の世界と上とじゃ時の流れが違うからな」
「まさか!そこまで違わないでしょ?」
「違う。ウン十倍こっちの方が流れが速い」
「ウン十倍?」






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