教えて!恋愛の女神様
「とにかく、本は借りて。そして、三号館の一〇一二教室まで運んで。わかった?」
「ああ」
「遅れたら、承知しないわよ。みんなに『かならず一講目に持っていくから』って言ってあるんだから。私に恥をかかせないで」
言い捨てれば高そうな白いブランド物のバッグを肩にかけ直し、高いヒールのミュールをものともせず、颯爽と去って行った。背中の真ん中まで届くストレートの長い髪は、逆立っているように見えた。
 エリカがいなくなると、急に館内は静かになった。他に学生はいるのかもしれないが、エリカのキツイ一言に恐れをなし、顔を見せられないのかもしれない。翔太は翔太で、力なく立ち上がると、右ポケットから五枚の学生証を取り出し、兄・裕矢に渡した。裕矢は複雑な表情で受け取ると、大きくため息をつきカウンターの中に座った。
 そして素早く貸出作業を終えると、学生証を翔太に返した。おそらくエリカの分だけでなく、彼女の友達の分まで借りてくるよう言われたに違いない。
(これじゃ、まるでドレイじゃない。なんで翔太君は付き合っているのかな?)
翔太はエリカに指示された教室へ持って行こうと、再び二十冊の本を縦に積み持とうとした。すると半分を裕矢が持った。
「半分持ってやるよ」
「いや、いいよ」
「……話があるんだ」
「話し?何の?」
「一〇一二教室へ向かいながら話そう」
裕矢は先陣を切って、一階へ続く階段へ向かって歩き出した。
 ただハッとすると、私のところへやって来た。向かう方向とは逆なのに。
「あの……」
「はい?」
「お茶は……翔太のお礼は、俺がします」
「え?」
「翔太はあんな感じだし、あなたとかかわるのはあまりよくないと思うんです」
「は、はあ……」
「ただ、俺は社会人だから、あなたの講義の空き時間にお茶をご馳走する事はできません。だから……」
「だから?」








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