教えて!恋愛の女神様
「今井さん、良い人ですね」
「そんな事ないですよ。私もまだまだ至らぬところがたくさんあるんです。知佳さんとなんらかわりありません」
「ずいぶん謙虚ですね。ロマンスならエバるところなのに」
「今後もロマンス様をお願いいたします」
「い、いえ、こちらこそよろしくお願いします」
「では、失礼いたします。おじゃまいたしました」
そう言うと、今井はスーッと音もなく消えて行った。
「ロマンスは部下に恵まれているね」
私の心は、温かい優しさに包まれた。

 土曜日の朝を迎えた。私は裕矢に紹介してもらったアルバイトに行くのが嬉しくて、午前六時にキリッと起きると朝食を食べ顔を洗った。これは本当に珍しい。奇跡的な事だった。
 それくらい、バイト代の三千円は嬉しかった。仕事の内容は、ほとんど気にしていなかった。
 使った食器を洗うとビニール製のクローゼットを開け、中から紺色のスーツと白ブラウスを取り出した。これは裕矢から指定された服装である。
 スーツとブラウスは、短大入学時に両親が買ってくれたもの。今は就職難なので、一年生の十月くらいから活動をしなければ、卒業しても職就できないかもしれない。それを見越して揃えてくれた。
(よもや、こんな形で使う事になるとは思わなかったな)
ルンルンして着替えると、テーブルの前に座り化粧をした。今日のメイクは、雑誌で見たキチンとした場に合うナチュラルで清潔感のあるもの。淡いクリーム色とブラウンのアイシャドウに、ピンク色のリップ。髪は後ろで一つにまとめ、黒いシュシュで止めた。
 鏡の中の私は、完全に就職活動中の短大生だった。
(このまま会社訪問できそう!完璧ね)
右を向いたり左を向いたりしながら、メイクとヘアーの出来栄えをチェックし、軽くうぬぼれた。
 すると、メールが来た。開けてみると裕矢からだった。
『おはよう、知佳ちゃん。ちゃんと起きれた?気になってメールしました。確認ですが、集合時間は午前八時三十分です。できるだけ遅れないように来てください』
メールを読み終えると、クスッと笑った。











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