教えて!恋愛の女神様
 ほぼ予定通りホテルのそばにあるバス停で降りると、足早に向かった。早く仕事がしたくて体が勝手に動いた。妄想に浸った事を考えるとちょっと恥ずかしかったが、『気にしない』と自分を慰めた。
「うわぁ!」
ホテルの前に着くと、外観をウットリと眺めた。
 首が痛くなるほど高くて、円柱形の形と高級感を感じさせる淡いブラウンの壁が織りなす外観は、一瞬で私をお姫様気分にさせた。三千円のアルバイト代が欲しくてやってきたというさびしい現実など、すっかり忘れさせてくれた。
(何度もドラマや情報番組で見た事があるけど、実際見てみると想像していたよりずっとオシャレで素敵!)
かなりルンルンしてガラス張りの大きな扉を開け、中に入ると、どこかへ向かって歩いていた女性のホテルマンと目が合った。彼女はビシッと制服を着て、頭の後ろできれいにお団子を結っており、優雅な笑顔で『いらっしゃいませ』と言った。彼女の声は気品に満ちていた。
(しゃべり方、笑顔、全部パーフェクトだわ!さすがBホテル!)
さらにルンルンしながら二階へ行くためのエスカレーターかエレベーターを探した。すると左斜め前にエスカレーターを見つけ、ゆっくりした足取りで乗った。さきほどのホテルマンに刺激されたのもあるが、素敵な空間になじむようおしとやかにしたかった。
 二階に着くと、オレンジとワインが基調の、繊細な柄のジュウタンを敷き詰めた大きな空間が広がっていた。正面の壁には沢山の木製の扉があり、その前に机と『〇〇セミナー』や、『〇〇祝賀会』と書かれた看板が置いてあった。周りにはスーツを着た数人の人が作業をしていた。私は左から右へ順番に、看板と作業している人を確認した。その中に、裕矢と『全国司書セミナー』と言う看板を見つければ目的地だった。
 すると、一番右にある机のそばに、裕矢と看板を見つけた。
 足早に近づいていくと、『おはようございます』と声をかける前に裕矢が顔を上げた。裕矢は目が合うと、パァーッと花が咲いたように笑った。
「おはよう、知佳ちゃん。今日はアルバイトを引き受けてくれてありがとう!」
「おはようございます。こちらこそよろしくお願いします!何もわからないので教えて下さいね」
「もちろんだよ!」
裕矢は笑顔で大きくうなずいた。











< 86 / 238 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop