たいせつなひと。
「まさか負けると思ってなかったしー。まじごめんってー」

春菜は昼休みに何度も謝ってくれた。

春菜が悪くないのはわかってる。

わかってるけど、…腹が立つ。

「ううん、もういいよ。気にしないで」

「どこ行くの? 怒ってるの?」

「違うよ。優くんのところ行ってくる」

「あー、行ってらっしゃーい♪」

彼女は一段と高い声をあげると、私に大きく手を振った。

教室を出ると、そこには美幸がいた。

「きゃあー、美幸!」

「わお、希美!」

私たちは歓声をあげて抱き合った。

美幸は私と同じテニス部に所属している。

髪の毛がとても短くて、後姿はまるで男の子みたいなんだけど、

目がお人形みたいにくりくりとしてて、肌は透き通るように白くて、

どんな方向から見ても、美人!

「何組~?」

「7組! 美幸は?」

「1組! めっちゃ遠いじゃんね!」

「そうだよ。てかもう7組嫌だよ~」

「はやすぎ! どうしたの?」

私ははぁーと大きくため息をついた。

「なんかさ、隣の橋口慶太ってやつ?

 もう、チャラいっていうか軽いっていうか。

 彼女いるくせに、のんのことタイプだとか言うし。

 まじ嫌なんだけど。優くんとは大違い!」

「…はは」

そのときの美幸の笑い方はまるで自嘲的だった。

「なんかいけないこといった?」

「いや。大丈夫なんだけど。

 その橋口ってやつ…うちの彼氏なんだよね」

「…え」

えええーっ!?

心臓が口から飛び出てしまうんじゃないかと思った。

美幸が! よりによって美幸の彼氏が!

美幸は美人で、頭も良くて、気遣いもできるし、運動神経だって抜群。

そんなパーフェクトな美幸の彼氏が…橋口。

私は混乱でぐるぐる回る頭を抱えた。
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