井上真緒編
そういって小倉も、営業に出かけていった。真緒は、現場に向かう途中歩きながら、なんかほっとしたような気にもなっていたが、小倉が素っ気ないような感じもした。もしかしたら、これはもう駄目なのかなと言う感じがしないでもなかった。そして、現場を見終わって、会社を後にした。駅について電車に乗る頃から、真緒は、あの化け物のことで緊張していた。今日もいるかどうかは分からない。もし、いたりしたらとにかく大変だ。引っ越しするしかない。家についた頃は、まだ日の明かりが残っていた。部屋に入って、昨日化け物がいたダイニングキッチンの上角あたりを見たが、そこにはいなかった。真緒はほっとした。そして、カーテンを閉めて部屋の明かりをつけた。しかし、その時に、昨日のあの化け物が浮かび上がってきたのだ。なんと恐ろしいことだ。夢であって欲しいが、それは現実なのだ。真緒はその化け物を何度も何度も見た。その化け物は、繭のような殻のなかに入り、顔だけを出していた。目と顔だけを動かして、ときどき真緒を見たりした。真緒は、震える気持ちを抑えながら、着替えをしてきて、料理を始めた。普通の人間だったら、こんなことはできないかもしれない。真緒は、気が強いので、なんとか動揺を抑えられているのだ。真緒は料理を作りながら、これはすぐに引っ越しするしかないなと思った。そして、料理ができあがりテーブルに並べようとしたとき、その化け物は、真緒に話しかけてきた。


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