井上真緒編
真緒は電車に乗っている間、何となくぼうっとしていた。結婚はもう無理だなと思った。チリ子とどうこうというのだけではなく、ここのところは、全然うまくいっていなかったのだ。相手を一方的に責める気にもどっかなれないところもあった。それでも相手がチリ子だというのは、結構面倒だ。チリ子とは、会社で毎日顔を合わせなくてはいけないのだ。なんか会社を辞めたい気分になった。そして真緒は、結婚はもうやめることに決めた。涙が出てきたが、電車のなかだったので、ほんの僅かでなんとか押しとどめた。
家について明かりをつけると、チアキはいつも通り浮かび上がってきた。

チアキ「どうしたの。元気がないわね」
真緒「うるさい。あんたのせいでしょ。心配したふりなんかしないでよ」
チアキ「思ったよりは元気があるのかしら」
真緒「ないわよ。それより、もう早く出て行ってよ。そうすれば私は幸せになれるんだから」
チアキ「人のせいにして問題が解決することはないのよ」
真緒「説教なんかしないでよ。だいたい、あなた子供でしょ」
チアキ「な、何を言うの。私は何百年もこうやっているのよ」
真緒「何百年て、いったいどういうことなの。子供のままずっと」
チアキ「私が子供。バカなことを言うのはよしなさい。あなたに分かるのは、ほんの少し。あなたの周りだけのことよ」
真緒「なんで、そこに張り付いてるのよ。ほんとうに自分では動けないの」
チアキ「あなたが幸せになったら、私の仕事は終わるの」
真緒「はあ、ふざけないでよ。邪魔ばかりしてるくせに。私が動かしてやる」


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