追いかけっこ(仮)


「彼女は私を見ると、
私めがけてガラスの花瓶を投げつけたのっ。
左腕が、真っ赤に染まって……んッ!!」


私は話の途中で口を塞がれた。

……伊次龍樹の唇によって。


「お前、もうしゃべるな。」

「……っ、」

「泣け。」


そう言って私を抱き寄せる伊次龍樹。

背中に回る腕が暖かくて、
私は自然と涙が溢れていた。

泣いた子どもをあやすように私の頭をぽんぽんと撫でる伊次龍樹。
その手に安心して、
いつの間にか眠ってしまっていた。


< 127 / 195 >

この作品をシェア

pagetop