翼をください。

実家と男性

「稲田」と書かれた表札。
手入れが行き届いた、巨大な門。

 かつて、私の家だった場所。 

…………微塵も記憶にないけどね。

 2歳まで育った我が家。

中に入ると、
いつものように賑やかな大広間。

警察やらマスコミやらでごった返し。

 人混みを押し退けリビングへと進む私と景。 

「やぁ、愛結ちゃん。」 

リビングは大広間の人混みが
嘘のように静まりかえっていた。

一人ソファに腰掛け、
優雅にコーヒーを啜る男性。

 「景君もいるのかい。久しぶりだね。
  でも、ちょっと残念かなぁ、
愛結ちゃんと二人っきりで
過ごせると思ったのに。」

 そう言って端麗な顔でへにゃと笑う男性。 
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