【短編】大空に舞う一輪の花のように
俺がバスケライフを心から楽しんでいたある日。
俺が練習を終えて帰えろうとしていると、ある部員の会話が俺の耳をくすぐった。
「知ってるか?朝比奈さんって彼氏いたらしいぜ…」
何気ないその会話に、俺は耳を傾け聞き込んでしまった。
「なんでもこの前、背の高い男と寄り添って歩いてるのを見たんだってよ」
「そりゃぁ、あのルックスで彼氏いないほうがおかしいだろ…」
『……………………』
その二人の会話に割って入りたいのに、言葉が浮かんでこない。
頭の中は真っ白だった。
『彼氏いたらしいぜ…』
『背の高い男と寄り添って…』
『彼氏いないほうがおかしい…』
その会話が、耳の奥深くで反響する。
「…あっ……」
不意に、俺の頬に何かが線を引いた。
滑るように落ちていくそれは、あっと言う間に体育館の床を濡らした。
それから俺は走った。
誰にも泣き顔を見られたくなかったから。
次々と溢れ出てくる涙を拭いながら、
ただ、走った。