小野さんとさくらちゃん
放課後、何となく学校を出たのはいいのだが、父が仕事から帰るまで家で独りでいる勇気もなく、行き場をなくしてしまった。

地元の駅前で、これ以上ペダルに足をかけられなくなった。

仕方なく改札口に自転車を止め道行く人を眺めていると、今まで身体のどこかでじっと堪えていた栓が外れ、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。


こんな所で、どうしよう。

止まることなく流れ落ちるその雫は「悲しい、たすけて」と空に訴えた。


ぼやける視界の中、必死に手を伸ばし、鞄からタオルを取り出してごしごし拭う。

「これ、小野さんの…」

以前、風邪をひいた小野さんにオムライスを作ってあげたお礼に貰った物だ。御守り代わりに持ってきていたのだった。


小野さん…私どうすればいいの?

頭の中がぐしゃぐしゃになり、無意識のうちに小野さんの番号を呼び出していた。

こんな電話、迷惑だ。
やっぱり切ろう…

そう思うのだが、指が動かない。

しばらくして、携帯の向こうから彼の声がする。

「さくらちゃん、大丈夫?…どうしたの?」

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