小野さんとさくらちゃん
しばらくして公園についた。家のすぐそばにあって、小さい頃よく遊んだりした場所だ。もちろん、小野さんとも。

昔と変わらない遊具。
汚いままの立て看板。

公園の真ん中にそびえ立つ桜は、もうすぐ咲きはじめるだろう大きなつぼみをつけている。


桜の木の下に自転車を止めると、横のベンチに並んで座った。会話は、ない。


駅前で泣きじゃくっていた時には高かった太陽も、すっかり夕焼け空を作っている。

空のオレンジが孤独を強調する。


小野さんが、ふっと桜を見上げた。


「この桜みたいに元気で立派な子になるようにさくらと名付けたって…昔、おばさんが言ってた。で、おかげさまで元気だけが取り柄の子になった。でも良かったって。」


お母さん…

そんなこと、小野さんに話してたんだ。

お母さんの所に生まれて、私、とても幸せだったよ。

なのに…


「お母さんが生きてる時、私…何もできなかった。」

小野さんの優しい目を見て、声を絞りだした。

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