小野さんとさくらちゃん
顔が近づいてくる、と思うと同時に唇に柔らかい感触がした。


キス。
人生で、初めての…


耳までリンゴのように赤くなった私をあやすように、もう一度優しく抱き締めてくれた。

「小野さん、大好き。」

私も負けじと抱き締め返す。

「祐樹…で、いいから。」


そうだよね。

この公園で遊んでいた頃はお互い名前で呼び合っていた。

それがいつしか…

小野さんが中学に進学して、急に遠いお兄さんになってしまったように感じ、名前で呼ぶこともなくなった。

距離が離れて、初めて気付いた小野さんへの気持ち。
それからずっとこの気持ちは変わらない。


「祐樹…大好き。」

もう一度、名前で呼べる日が来るなんて…


「さくらが不安な顔してたら、おばさんも安心して向こうにいけないよ?少しずつでいいから、一緒に頑張ろ。家も近いんだから、いつでも会えるよ。」


うん、うん、と頷きながら胸に顔を埋め、もう一度小さく呟いた。

「祐樹…すき。」

小野さんには聞こえないくらいの声で。

これからも、この名前が何度も呼べるように…
そう願いながら。

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