小野さんとさくらちゃん
アーケードが見えてくると、さすがに人通りも多くなる。

一歩前を歩く小野さんと私の間に大きな袋を下げたおばさん達が入り込んでしまって、小野さんの背中がどんどん離れていく。

追い付かなきゃ。

すみません、すみませんとずんずん人の間を抜けて、気がついた時には、もう離れまいと彼の左腕に手を伸ばしていた。


え?
しまった。
しまったー!!


「あ、ごめんね大丈夫?」

とんでもない事をした。
最低だ。

力が抜けてするすると滑り落ちた私の右手は、すぐに大きな手に拾われて、ぎゅっと結ばれた。

「ん、はぐれないように。」

はぐれないように、という目的とはいえ、好きな人と手をつないだことなんて初めてで、手汗でばれてしまいそうだ。

いや、もうとっくにばれているかもしれないこの鼓動を隠すのに精一杯で、それから家に帰るまでどうしたのか、少しも覚えていない。

気がつけば我が家に戻っていた。
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