日蝕
Heimatstadt und Erinnerungen

果てしない日常

 夢を見た。
 昔買っていたハムスターの夢。
 今まで何度この夢を見ただだろうか。

 


 ジャンガリアンのブルーサファイヤ。
 確かそういう品種のハムスターだった。
 
 



 中学3年生の時、両親にしつこいくらいにねだって、毎日ちゃんと自分でお世話することを約束し、誕生日に買ってもらった。ピンクと黄色で彩られた、洒落た飼育ケージ。



 かわいい飾りがついた陶器のえさ入れ。床材に使っていたパインの匂い。そして、回し車がくるくるとまわる音。


 夢の中の自分が、そっとケージの中を覗き込む。
 ケージの向こう側では、海斗が笑ってる。

 私の前にいるのは高校生の海斗だ。着崩した制服が、くるおしいほどに懐かしい。


 ふと目が覚めた。天井が最初はぼんやりと、しばらくして徐々にはっきり見えてくる。

 芽衣は枕元に置かれている、赤の目覚まし時計に目をやった。インテリアショップで購入したツインベルのレトロなものだ。仕掛けた時間になると、ジリジリとけたたましく容赦ない音を出すので、目を覚ますには効果的だ。


 8時40分。

 目覚まし時計は9時に仕掛けられている。
 芽衣はしばらく時計を凝視した。芽衣が睨みつけている間も、当然かまうことなくカチッカチッと動く秒針。
 
 

 8時40分。
 



 果たして、何の8時40分なのだろう。
 こういうことは、あまり珍しくない。
 


 鮮烈な夢を見て、いきなり目を覚ました時。
 ここがどこで、いつの8時40分なのか。
 自分は、何をしているのか。今、いつの時に身を委ねているのか。
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