日蝕
 それでも、いいと思っていた。この場に海斗がいたら何と言うか、千夏が何を思って眉を顰めるのか、お母さんが何を言わんとして言えないでいるのか、全部分かっていた。

 



 でも今は、この暮らしが好きだ。明るい日差しを浴びて。風が運んでくる季節の香りをかいで。

 



 ひんやりと冷たい朝に、肌に触れる毛布のように。

 

 そうだ、ミントティーも早速飲もう。ツンと透き通る味が意外においしかったから。
 自宅のアパートが見えかかったところで、芽衣はそう決めると歩調を少し速めた。
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