日蝕
 実の両親でさえも見出せなかった芽衣の扱いを、よく心得ている数少ない人の一人。


 いや、今のところ唯一か。

 芽衣は思わず内心で、苦笑する。数少ないうちの一人に、数年前までは海斗がいた。

 海斗は幸子ほどハイペースではないけれど、止まることなく雄大に豪快な波を描きながらまっすぐに進んでいく。そこに身を任せると、穏やかな波に揺られているようで心地がよく、他のどの場所よりも安心できた。

「島崎交差点にスタバがあるでしょ? その隣に新しくイタリアンのお店ができたの知ってる? 芽衣と行きたいのだけれど、どう? 時間ある?」
「あるには、あるけど……」


「けど?」
 幸子が先を促す。
「今日はお母さんの誕生日で、夜に小さなパーティがあるの」
「なんだ、そんなこと」
 予想通り、気持ちがいいくらいに一蹴される。


「そんな久しぶりに会うからって、暗くなるまで駄弁ったりはしないわよ。私も夜は用事あるしね。会社の上司の息子さんが、オープンする居酒屋さんの開店祝いにどうしても顔出さなきゃいけなくて。今夜様子見て、いい感じのお店だったら、また今度紹介するわ。それじゃぁ、12時15分に、島崎交差点のレストランの前で。オーケー?」


 

 一方的に早口で話続ける幸子に、最後唐突に同意を求められ、とりあえず芽衣は同意するしかない。

 大丈夫、と伝えると、今からやらないといけないことがあるから後で、と幸子はあっけなく電話を切った。
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