日蝕
「本日の日替わり自家製パスタ、ひき肉とトマトのパスタ、パセリをあえて」
 



 幸子がはきはきとした声で、壁にかけてあるボードを読み上げる。


「おいしそう! 私はこの日替わりパスタにしようかな! 芽衣はどうする? 芽衣も日替わりでいい? パセリ嫌いじゃないでしょ?」
 相変わらずの強引な催促に苦笑する。

「別にいいけど、何よ、その強引さ」
「だってー! 時間がなかったのと、めんどくさかったので朝ごはん食べてないの。もう1歩も動けないんじゃないかってくらい、ヘトヘト。早く注文しよう!トイレにも行きたいし!」
 

 幸子らしい、おおっぴらな最後の一言に芽衣は呆れる。


「今、行けばいいでしょ。ほら、幸子の後ろにトイレあるよ」
「注文してから行くわ。芽衣に注文任せるの、不安だから」
「いくらなんでも、私にだって注文くらいは一人で――」
 

 理不尽な信頼の欠如に申し立てをする芽衣の言葉を全く無視して、幸子は上
半身をレジにいたお店の人に向けると、軽く手をあげて、すみません、と透る声で呼んだ。



 大して気にすることもなく、芽衣は小さく肩をすくめ、目の前のお冷を手にするとゴクゴクと喉に通す。氷でキンキンに冷えた水で喉を潤し、少しさっぱりした気分になった。冷房がちゃんと効いてるところでよかった。
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