日蝕
――苺とオレンジ、どっちがいい?

 頭の中で反芻する声は、今は亡き祖母の声。フラッシュバックする幼い時分に捉えた情景に、つい胸がふさぐ。


 そこまで辛い記憶ではないのだけれど、好ましいものでもない、暑い日の喉が渇いたときに仕方なく、ぬるい水を口にする時の感じに似ている。


――早くしないと解けちゃうよ。


「お待たせ」
 


 幸子がトイレから戻ってくる。そして間髪おかずに、別の話を切り出す。
「北海道でね、乗馬をしてきたんだけど。もちろん、お年寄りのお客さん方を連れて。そしたらさ、お客さんの一人、おじいさんが乗馬中に――」
 


 幸子の話に耳を傾けながら、もう一度水を喉に流し込む。女の子同士のランチを楽しみながら、幸子のお土産話を聞く。何気ない日常の中で、芽衣が楽しみにしていることの一つだ。

 


 乗馬中におじいさんがぎっくり腰になり、病院に連れて行くまでの奮闘話もオチにさしかかったところ、店員さんがようやく、白い船のような形をしたパスタディッシュを2つ持ってきた。
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