日蝕
 芽衣は昔から「選ぶ」ということが、苦手だ。



 「選ぶ」とは、何かを得ると同時に、もう一方を失うことを意味する。
「選びなさい」、そう人は、そして世界は私に容赦なく言う。
 

 残酷な言葉だ。


 それは何かを「捨てなさい」と言っているのに等しいのだから。


 なんでもない日常が、なぜかずっと記憶に残ることがある。
 



 祖母が芽衣にアイスキャンディーをくれた、遠い昔の記憶。
 

 これまで生きてきた中で何度も同様のことが繰り返されているだろう、いつかふっと消えてしまいそうな小さな出来事。目の前には、多くのしわが刻まれた大きな手が二つ。


 右手にはオレンジ味の、そしてもう一方の左手には苺味のアイスキャンディー。



「お腹に悪いから一日一個までね」


 迷いに迷って、結局祖母に促されるまま、オレンジを選んだ。
 


 そして見つめた。再び冷凍庫の中へと帰っていく苺味のアイスキャンディー。未練があったわけでもない。
 


 ただ幼心にも、ふと悟ったのだ。今自分が何かを手に入れたと同時に、何かを手に入れることのできるチャンスを捨てたのだと。
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