日蝕
もしかしたら、芽衣はその翌日に苺味を食べたかもしれないし、それに芽衣は特別食い意地がはってたわけでもない。

 

 なのに、なぜか祖母の手に握られた、薄桃色の氷菓子が十数年たった今でも、普段は気づかれないように脳裏にそっと寄り添って、たまに顔を出しては、芽衣を不味くて生ぬるい水を飲んだような気にさせる。


 海斗は違った。捨てるもの、大事にとっておくもの、と峻別するのが昔からうまかった。
 


 あれは、学年までは、はっきり覚えていないけれど、小学生の時の秋の遠足の前日。もう一つの「なんでもない日常」。


 遠足のお菓子は300円まで。わら半紙に印刷された学級通信に「300」という数字が、太字で書かれていたので、お母さんが私に手渡したのも、海斗のおばちゃんが海斗に手渡したのも300円。

 


 選ぶことの苦手な芽衣は、300円をぎゅっと爪が手に食い込むくらい握り締め、目の前に並ぶ色鮮やかなパッケージをまとったお菓子たちを長いこと、じっと睨んでいた。



 下唇をかみ締めながら、ときどき、これに決めようかと手を伸ばすものの触れる前に、別の方がいいかもしれないと引っ込めてしまう。
 


 全部、得ることができたらいいのに。欲張りだったわけじゃないと思う。何かを捨てるのが、苦手なだけだったのだ。
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