日蝕
一方、海斗は躊躇することなく、あたかも最初から決めていたかのように、選んだお菓子たちを手中に手際よく収めていく。



 頭がいい海斗のことだから、金額もきっちり正確に計算して。そして手の中にあるお菓子たちを最後によくよく確認してコクンと頷いた後、決まって、まだ一つもお菓子を選べていない芽衣のほうを見るのだ。


 「しょうがないなぁ、芽衣は本当に」という呆れた、そしてどこか大人びた顔で。
 
 そうして結局決めることのできない芽衣は、海斗と全く同じお菓子を選ぶ。
 

 


 いつもそう。「選択」が嫌いだから、いつも周りにそれを頼む。



 遠足のお菓子も、中学校も、高校も、自転車の色も、日曜日に遊びにいくところも、土曜日の朝にみる映画も、喫茶店で頼むランチも。



 選んで貰った結果に特段不満も持たないし、海斗や幸子は見捨てずにいつも一緒にいてくれるのだから、それを不安に思ったことも疑問に思ったことも一度もなかった。
 


 そして今この瞬間も、幸子は、選択の余地を最初から排除した形で一枚のビラを突き出す。しかし今回ばかりは、さすがの芽衣もその提案に唖然とせずにはいられなかった。
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