日蝕
 トマトとパセリ、そしてひき肉のさっぱりとしたフュージョンは、とても美味だった。変に思い出してしまった苦々しい記憶も綺麗に洗い流してくれる。一旦胃を落ち着かせ満足したところで、追加で頼んだ4色アイスを楽しみに待つはずだった、が。





「ザクセンスイス? え、私スイスに行くの?」

「ちーがーう。ザクセンスイスはドイツの地方の名前。昔スイスの芸術家がその地方に移り住んで、『スイスに似ている』と言ったところから由来してるらしいわよ。そこにね、有名な国立公園があって、特殊な形をした山の上に有名なバスタイという橋があるの。



そこで、今度あると予測されている、日食を観察しましょうという企画。私、すっごく行きたかったんだけど、はずせない仕事が入ったからいけなくなったの。だから芽衣、代わりに行きなよ。


そのチラシに書かれてある主催を見れば分かると思うけど、主催はうちの会社じゃないの。あくまでもうちは協賛。主催はそれに書いてあるNPO」



「NPO?」
「そう、NPO、特定非営利活動法人。高校の時に政経で習ったでしょ?」
「そんな、大昔のこと覚えてない……」
「悲しくなるから、大昔って言わない。私達はまだピチピチの18歳と大して変わらない、25歳ガールズよ」
 
 7歳という絶望的な年月の差を無視して、幸子が張り切って言う。
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