日蝕
「どう、って。幸子なら分かるでしょ、私にはちょっと無理……。英語も話せないし」
「大丈夫。ドイツ人はドイツ語よ」
 


 幸子は太鼓判を押すように言うが、ドイツ語も英語も外国語がさっぱりな芽衣は何が大丈夫なのか分からない。


「うん、と頷いていくだけ、何にも難しいことはない。パスポートも以前、近いうちに海外旅行一緒に行くかもしれないからって作らせておいたでしょ。何にも問題なし!」
 
 

 問題は既に解決したというような口ぶり。だが、今回ばかりは話が飛躍しすぎて、さすがの芽衣も流されるわけにはいかない。



「でもお金の問題も……」
「ああ、そのこと」
 

 幸子が顔の前で、軽く手を振る。
「日程見て。今週の週末でしょ。キャンセルしても半額しかどうせ返ってこないから、芽衣には半額だけ払ってもらえばいいわ。それに、今日芽衣のおばちゃんに会ってきたんだけど」
「え、えぇ? うちの実家? なんでまた?」
 
 なんでもないことのように、さらりと幸子は言うが、当然芽衣には聞き捨てならなくて問い正す。


「だって、今日おばちゃんの誕生日だって言ってたじゃない。ご無沙汰してるし、花束かって挨拶してきたの。その時にこの旅行の話をしたら、おばちゃん、とても喜んでたわよ。きっと、芽衣にとっていい刺激になるだろう、って。お金も私が出しますって」
 

 うっかりしていた、と芽衣は舌を巻いた。芽衣の親友、幸子は、頭の回転が速い上に、手の回し方も素早く卒がない。つい忘れてしまっていたけれど。


 夜にお母さんの誕生日パーティがあるのに、まさか彼女は既に……。嫌な予感がして、問いかける。
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