日蝕
「ちょっと、もしかしてもう?」
 


 幸子がニッとして大きく頷く。



「お先に代金頂いちゃいました。しかも、1日か2日くらい塾講のシフトも代わってもらうの容易いでしょ? 


 人手が最近あまり気味で首になりそうだって、この前会った時話してたじゃない。もう、これは行くしかない?」



「私の意志はとことん無視ってわけ? しかも今週って、今日火曜日だから、えっと土曜日出発で……」

「4日後ね」



 幸子が芽衣よりも早く計算して答える。


「そんな……」
 芽衣は絶句する。



「急すぎる」

「大丈夫。実は木曜日も私仕事お休みだから、芽衣のアパートに行って、準備手伝ってあげるから。ここはプロの私に任せて。それに芽衣、あんたは行くべきよ」

「どうして?」



「人間はね、刺激がないと腐っていってしまうの。芽衣はこの町に閉じこもりすぎ。カビが生えかけてるじゃない。

まだ若いんだから、もっと外の世界をたくさん見なきゃ。でしょ?」
 

 目の前の上機嫌な親友を前に、芽衣はもう何も言えなかった。そこへ、店員がアイスを持ってやってくる。芽衣はふて腐れながら、スプーンでアイスをつついた。

 


 してやられた。幸子と、そしてお母さんに。


 芽衣を一番に心配しているだろう彼等に。本当の意図に薄々勘付いてしまうからこそ、反論できなくなる。



 だが彼らが期待してるように、何かがこの旅行で変わるとは思えないが――。

 


 久しぶりに訪れる落ち着かない日々。それを前に、芽衣はただ途方に暮れるしかなかった。
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