日蝕
「いらっしゃい。今日もいい天気だね」
 
 芽衣がデパート近くの花屋を訪れたのは、午後三時、太陽が少し傾き始めた頃。黒縁眼鏡の花屋のおじさんは私を見るなり、愛想よく声かけた。



「今日も贈り物用の花束かな?」
 



 その視線は私が手に提げている、傍のデパート内のキッチン洋品店の買い物袋に注がれている。中にはバーガンディ色のタジン鍋が水色の包装紙に包まれて入っている。私は母への贈り物であることを告げた。



「三千円ほどで、花束作ってもらえますか」
「もちろん。花の希望はあるかな?」
「特にないです。お店のおすすめのお花でお願いします」
 了解、おじさんは威勢よく答えると、店内の脇にある白いベンチを私に勧めた。



「さてと、何の花がいいかな」
 店内を見渡しながら、おじさんが一人つぶやく。


「あ、そうだ、その前に。ミントティー、好きかな? 人によって好き嫌いが結構分かれるんだけど」
 

 芽衣はミントティーは試したことがない。けれど、幸子が好みそうなお茶だと思った。


「ミントティーは試したことがないですけど、別にミントは嫌いじゃないです。むしろ好きなほうかも」
「そう、それならよかった」
 
 

 花屋ならではのティーだと思った。レジカウンターに置いてあるミントの鉢植えから、3、4枚の葉を摘み、綺麗に洗った後、カップに入れ、お湯を注ぐだけ。カップの上にティーソーサーをかぶせると、おじさんは熱いから注意するように、と言いながら私に手渡した。
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