日蝕
「4、5分そのまま蒸らしてから飲むといいよ。デトックス効果があるということで、最近若い女の人がよくミントの鉢植えを買っていくんだよ」




 芽衣は顔をカップに近づけて、香りをかいだ。



「ペパーミントですね」
「歯磨き粉によく似た香りがするでしょ。最近は、アップルミントやパイナップルミントも人気だけどね。ペパーミントの香りが少し苦手な人が、それらをよく好むみたいだ」



 三十分後、芽衣は店を出た。右手に圧力鍋と加えてペパーミントの鉢植えが入った袋、左手に花束を抱えて。



 花屋のおじさんが選んでくれた花は、ピンクのガーベラをメインにカスミ草、小さなピンクのバラ。ガーベラの優しい香りが花束から漂う。




――お客さんは親孝行なんだなぁ。
 
 選んだ花たちを手際よくラッピングしている時、おじさんが言った。芽衣はミントティーを口に運ぶのをぴたりととめた。




――そうですか?
――だって、父の日、母の日。お父さん、そしてお母さんの誕生日、結婚記念日と毎回うちにくるでしょ。

 


 以前から思っていたことだが、この花屋のおじさんは記憶力がいい。2回ほど通っただけで、芽衣の顔を覚えたようだった。

 


 足を運んでくれたお客さんの顔をなるべく覚える、これが売り上げを増やすコツなのよ、とかつて小さな商店を営んでいた祖母が昔言っていた。


 確かに顔を覚えてもらうと商売目的であったとしても親近感が沸くし、あまり悪い気もしない。また注文をつける時に、あまり説明せずとも分かってもらえて楽だ。
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