日蝕
小学校の先生になる。

 幼いころから、自分のことでさえも決めるのが苦手な私だったが、この夢だけは長いこと揺らがなかった。将来の夢を聞かれた時は、いつもこの答え。


 小学校三年生の頃、大好きだった担任の先生、柏木先生に影響されて。柏木先生は、温厚で穏やかな女教師で、今思うとちょっと風変わりなところもあった。児童のことを一人一人苗字ではなく、名前に「さん」をつけて呼んでいた。

 



 「芽衣さん」、まるで既に成熟した大人に話しかけるかのように丁寧に呼んでくれる優しい声がとても好きだった。いつでも児童の話は、それがどこかの偉い人の言葉のように真剣に傾聴した。


 忘れ物をした時、けんかをした時、無闇に怒るのではなく、そこからどう失敗をカバーするべきか、同じことが起こらないようどう行動するかを静かに問うた。

 当たり前といえば、確かに当たり前のことかもしれないが、確立した自我が芽を出そうとしている時期の児童達にとっては、その繊細な指導は効果覿面だっように思う。柏木先生みたいな小学校の先生になりたい。



 運動場でウェーブのかかった風に長い髪を揺らしながら、無邪気にはしゃぐ児童に囲まれていた先生のように、といつしか切望するようになった。
 
 



 
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