日蝕
 ゆえに、大学の志望を決めるにあたって、志望大学にはとことん無頓着であったが、学部に関しては「教育学部」の一点張りで、運よく地元の平凡な国立大学の教育学部に進学することができた。

 




 もしあの時、こうしていたら。
 もしあの時、別のものを選んでいたら。

 


 そうやって考えることほど、後ろ向きのことはないとよく知っている。そんなことしても何も始まらない、なんて知った顔の他人に指摘されなくても痛いほど自分で分かっている。



 それでも、人間は後ろ向いてしまう生き物なんだと思う。


 赤信号の横断歩道の前でぴたりと足をとめる。ぼんやりと眺めた反対側には、一組のカップル。


 紺のブレザーに赤いネクタイ。深緑にベージュのラインが入ったチェックのスカートとグレーにベージュのラインが入ったズボン。


 見間違いようがない、自分の母校、南宮高校の生徒。横断歩道の信号が青になり、足を踏み出した。優しい風が、髪を揺らす。花束のラップの中でカスミ草が揺れた。

 

 ここは私が生まれ、育ち、海斗と長い時間を過ごした町だ。


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