プラスマイナス、
「こ、こんにちはー…」
玄関に括りつけている鈴がチリンと鳴ったが、誰も出迎えてくれず、人のいる気配もなかった。
腕時計は10時前を差している。
間違いなく日曜日に約束した。一昨日に『明後日』と言っていたから来週のわけがない。
かくれんぼ?ドッキリ?
ひと部屋を丁寧に探したけれど、物音ひとつしなかった。
遊技室を覗く。
きちんと片付いたおもちゃ箱がある部屋の隅で、三角座りに顔を埋めている子がいた。
紘奈だ。
顔は見えないけれど、子どもほど小さくないしみなとさんほど大きくない。
僕は少しホッとして紘奈に駆け寄った。
「紘奈!みんなは?どこ?」
紘奈はゆっくりと頭をあげた。
その顔は蒼白で、生気がなくて、
「ひろ…」
「いなくなっちゃったよ……、みんな…。」
力なく、そう零した。
強い雨が、窓や天井を叩く音だけが響いた。