プラスマイナス、
ベッドのそばには本棚があり、難しそうな分厚い本がぎっしりと埋まっていた。
数学的、理化学的、そして宇宙に関するものまで。
小難しいことが苦手なみなとはすぐに本棚から目をそらし、パイプ椅子に腰掛ける斎木の向かいに座った。
「すみません、こんな時間に子ども達と一緒に来ていただいて」
「いえ、返ってベッドを借りてしまいすみません」
斎木は目を細めて微笑んだ。
しかしみなとは、そこに感情が乗ってないことに気付いていた。
「紘奈は元気にしてますか」
「えぇ、まぁ…」
「それは良かった。あなたのおかげですね。…えっ…と…」
「高科みなとです」
「失礼、高科さん。私は斎木俊英と申します」
気味が悪い。
それがみなとの斎木に対する垂直な感想だった。
普通の人を装っている。
そこに心はなく、今目の前にいるみなとのことも見ていない。