プラスマイナス、
紘奈に近付き、持っていたビニール傘を広げて差し出した。
紘奈がゆっくり振り向いて安堵したのも束の間、首に圧迫されるのを感じた。
細くて小さな手が、僕の胸ぐらを掴んでいる。
「ぐっ…あぁっ…」
状況がわからない。
あの紘奈が、こんなことをするのが信じられない。
困惑していると、そのまま地面に押し倒された。
ぬかるんだ土が背中にまとわりついて気持ち悪い。
「いっ…た…」
「まさくんが、みんなを連れていったの…?」
「へ…」
一瞬なにを言っているのかわからなかったが、すぐに斎木さんの顔が思い浮かんだ。
だけど、紘奈の目が怒りに満ちているから、なかなか言葉が出てこなかった。
「あの……えっと…」
「…………」
「ぼ、僕は……」
なんでこんなに紘奈が怒ってるのかわからない。
わからないから、だんだん涙が溢れてきた。
「昨日の昼に、あたしが帰ってきたときから、ずっと誰もいないの。滅多に使わない車もなくて…」