プラスマイナス、
第五章
定岡
「けいちゃん!おはよ!」
「さえ!」
登校中に鈴のような音で声をかけてきたのは、定岡と同じクラスの少女、吉川さえだった。
走って駆け寄るたびに、低く結った二つ結びがふよふよと揺れる。
二人は同じクラスという以外に接点はないが、クラスで一番仲が良かった。
接点を持つことになったきっかけは、単に席替えで隣同士になったからだ。
算数の授業中、定岡は黒板に書かれた数式をぼーっと眺めながらノートの隅に落書きをしていた。
棒人間が体をくねらせ変なダンスをしている、なんの中身のない落書きだった。
そんなとき、隣から「ぶふっ」と吹き出す声が聞こえた。
何事かと定岡が隣を見ると、吉川さえはふくふくと笑いを堪えながら、小声で「なにこれ、変なの」と落書きを指差しながら呟いた。
そんな些細なきっかけで、二人は仲良くなった。
そして定岡は、徐々にさえに惹かれていった。