プラスマイナス、
「人殺し」
「さえちゃんを殺した」
「道路に押して車に殺させた」
「殺人者だ」
「モテるからって調子にのって」
目撃者も多く、噂は一瞬にして肥大した。
定岡を慕っていた女子も、軽蔑の視線を注いだ。
「圭一君のせいじゃないの。だからそんなに気を落とさなくていいのよ」
母は、定岡の中に生まれた歪みを洗いざらい吸い取ってあげようとするかのように、延々と呟き続けた。
しかし、もうすでに遅かった。
それはさえが車に跳ねられた瞬間から。
人形のように飛ばされた小さな体。
数分前と変わらず、その体には血が巡り、臓器があり、骨がある。
しかし車との衝突により、もう二度と動くことはない体。
人が死ぬ、という安易だけど複雑で神秘的なこと。
必死に慰めの言葉をかける母の腕の中で、定岡は静かに狂い始めていた。
定岡がわずか8歳の頃の出来事だった。