プラスマイナス、
「まさくん!」
思いの外大音量で聞こえた幻聴にハッと目を覚ますと、紘奈が僕の顔をのぞき込んでいた。
まだ僕は寝ぼけてるのか。
それとも一晩で頭がイカれてしまったか。
「やっと起きたね。おはよ」
僕の顔をのぞき込む形のまま、紘奈は笑った。
イカれているのは、紘奈の頭だ。
「…呼ぶなって、言わなかったっけ」
さっき反省したばかりなのに、やっぱり言葉はあまのじゃくなことしか言えなかった。
正直に言ってしまうと、またきっと昔みたいに泣き出してしまいそうになる。
あまのじゃくな言葉は、涙をとめるストッパーだと気付いた。
まぁ、結局は罪悪感にまみれてベッドでひとり泣きじゃくることに変わりはないんだけど。
紘奈の前で泣きっ面を晒すよりかだいぶマシだ。
「あ、ごめんね。だってこれが一番しっくりくるんだもん」
「話が違う」
「じゃあ、よっしー?」
「やだ」
「なら、まさくんだね!」
まさかの二者択一か。